"寝具の選びかた①"  より良い寝具でより良い睡眠を

寝具をどう選ぶ?
科学的知識に基づいた寝具の選び方を。


 
 皆さんは寝具をどうやって選んでいるだろうか? おそらく、多くの人が科学的知識に基づいた選び方をしていないと思う。なぜなら、睡眠と寝具に関する科学的研究成果はまだ新しいものが多く、それらの知識が寝具の販売現場にしっかりと浸透していない(つまり、必ずしも寝具の販売現場でよいマットレスをすすめてもらえるとは限らない)からだ。

 例えばマットレスなどの敷き寝具についても、最近いくつか研究成果が報告されているのだが、こういった新しい知見からすると、強い疑問を禁じえない謳い文句をよく耳にする。
 そのひとつが「寝返りせずにぐっすり眠れる」というものだ。「寝返りせずにぐっすり眠れる」というのは本当だろうか。結論から言うと、「寝返りせずにぐっすり眠れる」というのは現在の科学的知識に反すると言わざるを得ない。
  寝返りには、まず、血液循環パターンの変化を促すという役割があると考えられている。一定の部位に圧力がずっとかかっていたり、姿勢が変わらず重力のかかり方がずっと同じだったりすると血液が一定の場所に滞留しやすくなり、血液が循環しにくくなる。たまに姿勢を変えて、血液の滞留を解消してやる必要がある ということだ。
 また、寝返りには体温調節の役割があると考えられている。これは、暑いときは涼しい場所に移動するというような行動性体温調節の一種と考えられている。うちの犬は夏になると必ず一番涼しい場所を探してそこに陣取っているが、そういった行動を人も覚醒時はもちろんのこと睡眠中も自然と行なっているのである。同じ場所が寝具と長く接しているとその部分が温まり過ぎてくるので寝返りして移動する、掛け布団をかけて最初はちょうど良かったのがだんだん暑くなってきて布団から抜け出したり布団をはいだりするというように体温を調節しているということだ。
 さらに、もう一つ、寝返りには睡眠段階移行のスイッチのような役割を果たしているとも考えられている。睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠があり、ノンレム睡眠に浅い睡眠段階から深い睡眠段階があるという話を聞いたことがあるだろうか。この睡眠段階をスムースに移行しながら朝を迎えられれば睡眠が分断されることなく具合が良いのだが、この睡眠段階の移行時に寝返りがスイッチのような役割を果たしているのではないかと考えられている。さて、以上3つの役割を寝返りせずに果たすことができるだろうか? 答えはNOだろう。

 ここまでで、睡眠中の寝返りの必要性は理解していただけたことと思う。しかし、逆説的に聞こえるかもしれないが、「寝返りするときは、睡眠が一過性に浅くなり、目が覚めやすい状態になっている」というのもまた事実なのである。寝返りするときに力が必要(柔らかすぎて、弾力性もないマットレス)だったり、寝返 りするときに痛みなどの刺激が強い(硬すぎるマットレス)と目が覚めてしまい、睡眠が分断される。「寝返りせずにぐっすり最高の眠りを」といった謳い文句のマットレスたちは、寝返りしないほうが睡眠にとって良いという考えを前提としている為、長時間同じ姿勢でも痛みがないようにやわらかく弾力性のない素材を用いていることが多い。つまり、「寝返りがしにくく、寝返りのたびに目が覚めやすい状態」になって、睡眠は分断されてしまう危険性があるのだ。そもそも人間は、長時間同じ姿勢をとり続けるとカラダのあちこちが痛くなるのが自然だ。若く体力があったり、睡眠が極度に不足していれば多少寝返りしにくくても問題ないケースがあるかもしれないが、そういった状況が、全ての人に通用する訳でもなく、十分な注意が必要だ。

  実際、寝返りしやすさの異なるマットレスを1週間ずつ使用し、それぞれのマットレス使用時の睡眠状態をアクチグラフという測定器で客観的に比較したり、起床時の主観的な睡眠感を比較すると、寝返りしやすいマットレスのほうが良好な睡眠が得られることが報告されている。寝返りしやすさは、マットレスの弾力性(やわらか過ぎて弾力がないものは寝返りしにくい)や幅(幅が狭いマットレスでは寝返りしにくい)などで異なってくる。寝返りをしなくて済めば、マットレスの幅も、人間の肩幅と同じ程度で済んでしまうが、さぞかし窮屈であろうと思うのは私だけではあるまい。

 寝具と睡眠は私の専門領域で個人的な思い入れが強いため、ちょっと話が長くなり過ぎてしまった。まだ「寝具の選びかた」という本題に入っていないのに大変申し訳ないが、続きは次回の睡眠hackを読んでいただきたい。

T.Kogure 睡眠改善インストラクター

 
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