この度の東北地方太平洋沖地震において被災された皆様およびそのご親族、関係者の方々に、心よりお見舞い申し上げます。皆様の安全と一刻も早い復旧を深くお祈り申し上げます。
なお、この取材は、震災前の2月に行われたものです。

少女時代から天才スケーターとして名をとどろかせ、2006年の冬季トリノ五輪では、その華麗な演技で金メダルを獲得された荒川静香さん。その艶やかな姿は、今も我々の記憶に新しい。その後、荒川さんはプロフィギュアスケーターに身を転じ、氷上以外にも大きく活動の場を拡げた。この日の取材は、スケートリンクでのトレーニングを終えたばかりの忙しいスケジュールの合間を縫って行われた。荒川さんのプロフェッショナルな日常、そして睡眠へのこだわりは、いったいどんなものなのだろうか。
プロのフィギュアスケーターとして
三橋美穂(以下三橋) 今日のインタビューに備えて、昨夜、荒川さんが金メダルを取られたトリノ五輪の映像をビデオでもう1度見直していたんですが、改めてすごく感動しまして。あのような大きな試合の前はそれは緊張することと思いますが、試合の前日はお休みになれたのだろうか、とふと思いました。
荒川静香(以下荒川) 実はそれほどでもなかったんです(笑)。アマチュアのときはかえってそういう緊張状態に慣れていたので、緊張で眠れなくなるということはあまりありませんでした。むしろ最近のほうが眠れなくなることが多いんです。
三橋 まぁ、そうなんですか。
荒川 今はどんなに夜遅くまで仕事をして疲れていても、翌朝には練習のため起きなければというプレッシャーがあります。体を休ませるために睡眠を取っているというよりも、翌日のスケジュールに合わせて睡眠時間も変わるという感じなので、どうしても生活が不規則になりがちです。そのようなリズムが続くと、起きたらすぐに動き出さなきゃいけないという気持ちがあるからか、あまり深く眠れなくなってしまいましたね、特にこの何年間かは。
三橋 そうですか。以前のほうがかえって時間が自由だったということですか。
荒川 アマチュア時代は、深夜まで気を張って何かをしているということが、ほとんどなかった。試合期間中の公式練習は時間も短いですし、試合当日も寝られないほど忙しいなどということはないですから、睡眠と食事は規則正しく取れる生活を送っていたと思います。それが、プロになってから、氷上以外の仕事もさせて頂くようになり、生活のリズムが変わって、やることの種類が色々といいますか、異なるタイプの仕事をさせて頂いているので違った生活のサイクルに。
三橋 最近は、日によって生活のリズムもずいぶんと異なるのでしょうか。
荒川 全く違いますね。朝5時に起きるときもあればその頃眠りにつくこともありますし、本当にバラバラです。今日の練習は朝11時からでしたが、リンクのスケジュールが空いていなければ6時から滑ることもあります。当日の練習に合わせて起きるので、前日に何時に寝ようと、次の日のスケジュールに合わせて起きる。だから、最低何時間寝るというようなことができないんですね。結果として、かえって寝なくても動けるようになってしまいました。
三橋 そんな中で、睡眠について何か気を遣っていらっしゃることはありますか。
荒川 そうですね、ギリギリまで睡眠を取るということでしょうか。出かけるまでにかかる時間を逆算して目覚まし時計をセットするのですが、食事も大事ですけれども、まずは睡眠。食事の時間を削ってでも、睡眠を確保。寝られるときにできる限りの時間を確保しておかないと、本当に睡眠が取れなくなってしまうんです。やはり睡眠が4時間を切ると翌日がキツイですから、最低5時間は寝たい。平均すると毎日の睡眠時間は5時間ぐらいでしょうか。
三橋 そうですか。移動の途中で寝たりはされないんですか。
荒川 それができないんです。私は首がちょっと長いのか、移動中に寝ると(首や肩が)ものすごく痛くなってしまうんです。さらに頭まで、歩く振動もつらいくらいに痛くなってしまうので、なるべく「うっかり」寝ないようにしているんです。寝るのだったらしっかり寝る体勢を取れるときだけにしています。
三橋 確かに、首がすっと長くていらっしゃる。
荒川 長さのわりに太さがないためなのか、中学生ぐらいから肩こりもひどいです。1回こり過ぎちゃうと頭痛も続くので、そこは結構な悩みでもあるんですよね。
三橋 じゃあ少ない睡眠時間の中でどれだけぐっすり眠れるかというあたりはきっと興味がおありですね。
スケート、そして睡眠への工夫とこだわり
荒川 そうですね。今も遠征が多いのですが、遠征先のホテルのベッドの硬さと枕がどうしても合わないこともあるんですね。そうなると、寝るとかえって疲れてしまうというようなこともたびたびあります。どれほど寝られたかで次の日の仕事のパフォーマンスも変わってくるでしょうから、寝る環境というのは大事だなと思います。
三橋 遠征先に持っていかれるものはありますか。
荒川 やはり、どうしても荷物は結構な量になります。特にアイスショーの仕事で出かけるときには、スケート靴と衣装だけでもスーツケース半分以上は取ってしまう。となると、なかなか健康のためのものというのはたくさんは持っていけない。ですから、特別なものではないですけれども、香りでリラックスするのは好きなので、例えばアロマオイルなどをタオルに含ませてベッドの脇に置いたりとか。願わくばベッドと枕を持参できればそれが一番なんですけれどもね。でも、絶対に無理なことを考えるのはやめようと思って(苦笑)。
三橋 (横のパラマウントベッド社員に向かって)コンパクトな枕を開発してください。くるくるっと丸められるような。
荒川 プチッと押したらシューッと小さくなるような枕があれば(笑)。
三橋 ご自身で、自分の睡眠時間はこれくらいがベストだというのはありますか。
荒川 そうですね、やはり7時間くらい睡眠を取れると、「結構寝られたな」という感じがして、きっと体も元気になると思います。それ以上寝るとかえってだるくなったりするかな......。というか、そんなに寝られたことがないので、どうなるかが自分でわからない(苦笑)。私は、次の日が休みであっても、比較的早い時間帯に起きることが多いんです。癖がついてしまっているのか、起きてしまう。ストレートで寝られたとしても最長6時間とかですかね。
三橋 今は昔と比べて夜も遅いのでしょうか。
荒川 夜も遅いですし、朝も早くなったかもしれないです。どんな仕事をしていても練習は欠かせないですから、どうしても睡眠を削ることになってしまう。そうすると仕事と練習の重なる日には1日のうちに余ってくる時間が大体4〜5時間ぐらいになってくる。
三橋 基本的に練習は毎日していらっしゃるんですか。
荒川 はい、週5日は練習しています。本当は週6日でやれたら一番楽に維持していけるのですが、土日にリンクがどこも使えないということもありますので。
三橋 1日あたり何時間くらい滑るんですか。
荒川 できれば1時間半ぐらいはやれたらいいなと思うのですが、リンクの都合で、例えば今日も1時間とか、そういう状況ですね。
三橋 実際に滑っていらっしゃるところを初めて拝見したんですが、本当に迫力があって、きれいでした。体が柔らかいんですね。
荒川 毎日やっていないとすぐに硬くなりますよ。
三橋 そうですか。入浴後のストレッチなどはされているんですか。
荒川 いつって決めずに、結構いろんな場所でストレッチはしていますね。意識的にしているわけではないのですが、いろんな場所で、密かに打ち合わせの合間とかもやっていたりしていることもあります(笑)。
三橋 そうですか。睡眠時間は短いということなんですけど、眠りに入るときっていうのはスムーズに入れるんですか。
荒川 いや、それが結構時間がかかってしまうんです。昔はわりとすぐ眠れたんですけれども、最近は、やはり起きなければいけないというプレッシャーに駆られて、「寝なきゃ寝なきゃ」と思うとかえって眠れない。そうではない状況でうっかり寝てしまうほうが簡単なのでしょうが、「もうあと何時間しかないから寝なければ」と思うと寝られなくなってきちゃうんですね。
三橋 そうですか。遠征が多いと寝る場所もよく変わりますよね。
荒川 はい。いろんなシチュエーションがありますから、行ってからの運みたいなものもありますね。
三橋 なかなか眠れないときって、どうしていらっしゃるんですか。
荒川 うーん、ゲームをやっていることが結構多いかもしれません。アドレナリンが出ない、時間に制限のないパズルみたいなゲームってありますよね。
三橋 比較的単調なゲーム。
荒川 はい。時間の制限もないので、眠くなったらそのまま放っておけるというようなゲームをやっています。時間に制限がある対戦ゲームですと、きっとさらに寝られなくなるような気がして。自分がどんなパターンで眠くなるかを知っていれば、そういう単調なアイテムを見つけておくこともできます。
三橋 睡眠についてもやはりいろいろご自身なりに工夫をしていらっしゃるんですね。
荒川 そうですね。中には眠るために本を読む人もいらっしゃると思いますが、自分が次の日にどこまで読んだかまた探さなければいけないのが面倒なので、ゲームのほうが楽ではあります。
目覚めの方法について
三橋 朝の目覚めはいかがですか。
荒川 朝は目覚まし時計が鳴るよりも先に起きます。必ず目覚ましの30分くらい前に目が覚めてしまうので、すごく損をした気分になります(苦笑)。30分ってもう1回寝直す時間でもなく、何となくもう少し寝たかったなあという気持ちを抱えながら(笑)、だらだらとベッドの中で30分を過ごして、あとはお風呂にパッと入って、目を覚まして出かける感じです。
三橋 朝、入浴されるんですか。
荒川 はい。シャワーのときもありますし、朝からお風呂張っているときもあります。夜はたいていゆっくり体を温めることを目的として入りますけれども、朝は髪の毛から足の先まで洗って目を覚ます、というような感じです。
三橋 朝は熱めのシャワーを浴びるのがお勧めの方法なんですよ。寝起きって体温が低いんですけど、交感神経が刺激され、体温も上がってすっきり目が覚めますから。
荒川 私、寝起きの体温がとても高いんです。
三橋 えっ、そうなんですか?
荒川 はい。寝ている間にとても代謝するようで、冬でも暑くて暑くてしょうがないぐらいになって起きるんです。
三橋 やっぱり筋肉がしっかりしているからでしょうか。羨ましい限りです。
荒川 その代わり、寝るときにはとても手足が冷たかったりするので、この時期(2月)は電気毛布に足のところだけ入れて、いざ寝るときには電気を切ってというようなことをしています。
三橋 それはすごいですね。普通は明け方というか、起床の2、3時間前が一番体温が低くて、体温が高いときと低いときと1日の内に1度くらい差があるものなのですが。
荒川 朝起きたときは大体37度ぐらいに近いところですね。それくらい朝は熱いんです。
三橋 へええ。普通は低いので、その後に体温を上げるのが大事だと言われるんですよ。
荒川 あっそうなんですね。その後、ぐっと体温が下がるんですけど。そのせいか目覚めがいいというか、もうちょっと寝ていたいときも寝ていられないのは残念な感じですけども。
三橋 お話を伺っていると、責任感の強さが伝わってきます。
荒川 妥協したくないんですね、やっていることに、きっと。何の仕事をしたから次の日の何がおろそかになるというのが嫌だったりするので、やるからにはすべてのことをきちんとやり遂げたいと思う。1種類の仕事で忙しい分にはきっと次の日に持ち越すこともできるんでしょうけれども、違ったことを常に切り替えてやっていかなければいけないので、今は妥協するポイントがないんです。次の日に持ち越すことができないのなら、今やっていることは今締めくくってしまわなければいけない。きっと次のことに響かせたくないという思いがあるのが、睡眠に費やす部分が一番後回しになってしまう原因でもあるんですけれど。そういうときに、短くてもいいのですが、深く眠りたいなとは思いますね。
荒川静香 あらかわ・しずか
プロフィギュアスケーター。神奈川県鎌倉市出身。早稲田大学卒業。プリンスホテル所属。
5歳の時、たまたま遊びに行ったスケートに興味を持ち、ちびっ子スケート教室に入る。その後、小学校に入学してから、本格的にフィギュアスケートに取り組み、小学3年ですでに 3回転ジャンプをマスターし、天才少女と呼ばれた。94年には初めての国際大会(トリグラフトロフィー)へ出場。94年〜96年には全日本ジュニアフィギュア選手権で3連覇を果たす。世界ジュニアへも3大会連続で出場。97年、ジュニアからシニアへと移行してからも、日本選手権で初優勝を飾るなど、シニアでも大きな存在感を示す。98年、長野五輪へ出場。日本選手権でも 2連覇を果たす。2003年、ユニバーシアード、冬季アジア大会にて優勝。2004年3月、早稲田大学卒業と同時期に、ドルトムントで行われた世界選手権で3回転-3回転のコンビネーションジャンプを決め、技術点で満点の6.0をマークしワールドチャンピオンを獲得。トリノ五輪では、ショートプログラム及びフリースケーティングでも自己ベストを更新し金メダルを獲得。2006年5月にプロ宣言をし、国内及び海外のアイスショーを中心に、テレビ、イベント出演、スケート解説、オリンピックキャスター、また、イタリア・ピエモンテ州の観光大使を務めるなど様々な分野にも精力的に挑戦している。
(略歴はオフィシャルHPよりhttp://www.shizuka-arakawa.com/)
三橋美穂 みはし・みほ
快眠セラピスト。寝具メーカーの研究開発部門長を経て独立。心の環境、体の環境、睡眠の環境を整えることが快眠の3つの柱と考え、睡眠とストレス、食事、色彩、体操、呼吸法、寝具などとの関わりについて研究。講演や執筆、個人相談を通して、眠りの大切さや快眠の工夫、寝具の選び方などを提案している。特に枕は、その人の頭を触っただけで、どんな枕が合うかわかるほど。睡眠を多角的にとらえ、その幅広い知識と、実践的でわかりやすいアドバイスには定評がある。ベッドメーカーのコンサルティングや、ホテルや旅館の客室コーディネイトなど、企業の睡眠関連事業にも携わる。著書に『ねこに教わる快眠レッスン60』(PHP研究所)、『幸せを呼ぶ快眠ヒーリング』(日本実業出版社)などがある。
(オフィシャルサイト: http://sleepeace.com/)
なお、この取材は、震災前の2月に行われたものです。
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少女時代から天才スケーターとして名をとどろかせ、2006年の冬季トリノ五輪では、その華麗な演技で金メダルを獲得された荒川静香さん。その艶やかな姿は、今も我々の記憶に新しい。その後、荒川さんはプロフィギュアスケーターに身を転じ、氷上以外にも大きく活動の場を拡げた。この日の取材は、スケートリンクでのトレーニングを終えたばかりの忙しいスケジュールの合間を縫って行われた。荒川さんのプロフェッショナルな日常、そして睡眠へのこだわりは、いったいどんなものなのだろうか。
プロのフィギュアスケーターとして
三橋美穂(以下三橋) 今日のインタビューに備えて、昨夜、荒川さんが金メダルを取られたトリノ五輪の映像をビデオでもう1度見直していたんですが、改めてすごく感動しまして。あのような大きな試合の前はそれは緊張することと思いますが、試合の前日はお休みになれたのだろうか、とふと思いました。
荒川静香(以下荒川) 実はそれほどでもなかったんです(笑)。アマチュアのときはかえってそういう緊張状態に慣れていたので、緊張で眠れなくなるということはあまりありませんでした。むしろ最近のほうが眠れなくなることが多いんです。
三橋 まぁ、そうなんですか。
荒川 今はどんなに夜遅くまで仕事をして疲れていても、翌朝には練習のため起きなければというプレッシャーがあります。体を休ませるために睡眠を取っているというよりも、翌日のスケジュールに合わせて睡眠時間も変わるという感じなので、どうしても生活が不規則になりがちです。そのようなリズムが続くと、起きたらすぐに動き出さなきゃいけないという気持ちがあるからか、あまり深く眠れなくなってしまいましたね、特にこの何年間かは。
三橋 そうですか。以前のほうがかえって時間が自由だったということですか。
荒川 アマチュア時代は、深夜まで気を張って何かをしているということが、ほとんどなかった。試合期間中の公式練習は時間も短いですし、試合当日も寝られないほど忙しいなどということはないですから、睡眠と食事は規則正しく取れる生活を送っていたと思います。それが、プロになってから、氷上以外の仕事もさせて頂くようになり、生活のリズムが変わって、やることの種類が色々といいますか、異なるタイプの仕事をさせて頂いているので違った生活のサイクルに。
三橋 最近は、日によって生活のリズムもずいぶんと異なるのでしょうか。
荒川 全く違いますね。朝5時に起きるときもあればその頃眠りにつくこともありますし、本当にバラバラです。今日の練習は朝11時からでしたが、リンクのスケジュールが空いていなければ6時から滑ることもあります。当日の練習に合わせて起きるので、前日に何時に寝ようと、次の日のスケジュールに合わせて起きる。だから、最低何時間寝るというようなことができないんですね。結果として、かえって寝なくても動けるようになってしまいました。
三橋 そんな中で、睡眠について何か気を遣っていらっしゃることはありますか。
荒川 そうですね、ギリギリまで睡眠を取るということでしょうか。出かけるまでにかかる時間を逆算して目覚まし時計をセットするのですが、食事も大事ですけれども、まずは睡眠。食事の時間を削ってでも、睡眠を確保。寝られるときにできる限りの時間を確保しておかないと、本当に睡眠が取れなくなってしまうんです。やはり睡眠が4時間を切ると翌日がキツイですから、最低5時間は寝たい。平均すると毎日の睡眠時間は5時間ぐらいでしょうか。
三橋 そうですか。移動の途中で寝たりはされないんですか。
荒川 それができないんです。私は首がちょっと長いのか、移動中に寝ると(首や肩が)ものすごく痛くなってしまうんです。さらに頭まで、歩く振動もつらいくらいに痛くなってしまうので、なるべく「うっかり」寝ないようにしているんです。寝るのだったらしっかり寝る体勢を取れるときだけにしています。
三橋 確かに、首がすっと長くていらっしゃる。
荒川 長さのわりに太さがないためなのか、中学生ぐらいから肩こりもひどいです。1回こり過ぎちゃうと頭痛も続くので、そこは結構な悩みでもあるんですよね。
三橋 じゃあ少ない睡眠時間の中でどれだけぐっすり眠れるかというあたりはきっと興味がおありですね。
スケート、そして睡眠への工夫とこだわり
荒川 そうですね。今も遠征が多いのですが、遠征先のホテルのベッドの硬さと枕がどうしても合わないこともあるんですね。そうなると、寝るとかえって疲れてしまうというようなこともたびたびあります。どれほど寝られたかで次の日の仕事のパフォーマンスも変わってくるでしょうから、寝る環境というのは大事だなと思います。
三橋 遠征先に持っていかれるものはありますか。
荒川 やはり、どうしても荷物は結構な量になります。特にアイスショーの仕事で出かけるときには、スケート靴と衣装だけでもスーツケース半分以上は取ってしまう。となると、なかなか健康のためのものというのはたくさんは持っていけない。ですから、特別なものではないですけれども、香りでリラックスするのは好きなので、例えばアロマオイルなどをタオルに含ませてベッドの脇に置いたりとか。願わくばベッドと枕を持参できればそれが一番なんですけれどもね。でも、絶対に無理なことを考えるのはやめようと思って(苦笑)。
三橋 (横のパラマウントベッド社員に向かって)コンパクトな枕を開発してください。くるくるっと丸められるような。
荒川 プチッと押したらシューッと小さくなるような枕があれば(笑)。
三橋 ご自身で、自分の睡眠時間はこれくらいがベストだというのはありますか。
荒川 そうですね、やはり7時間くらい睡眠を取れると、「結構寝られたな」という感じがして、きっと体も元気になると思います。それ以上寝るとかえってだるくなったりするかな......。というか、そんなに寝られたことがないので、どうなるかが自分でわからない(苦笑)。私は、次の日が休みであっても、比較的早い時間帯に起きることが多いんです。癖がついてしまっているのか、起きてしまう。ストレートで寝られたとしても最長6時間とかですかね。
三橋 今は昔と比べて夜も遅いのでしょうか。
荒川 夜も遅いですし、朝も早くなったかもしれないです。どんな仕事をしていても練習は欠かせないですから、どうしても睡眠を削ることになってしまう。そうすると仕事と練習の重なる日には1日のうちに余ってくる時間が大体4〜5時間ぐらいになってくる。
三橋 基本的に練習は毎日していらっしゃるんですか。
荒川 はい、週5日は練習しています。本当は週6日でやれたら一番楽に維持していけるのですが、土日にリンクがどこも使えないということもありますので。
三橋 1日あたり何時間くらい滑るんですか。
荒川 できれば1時間半ぐらいはやれたらいいなと思うのですが、リンクの都合で、例えば今日も1時間とか、そういう状況ですね。
三橋 実際に滑っていらっしゃるところを初めて拝見したんですが、本当に迫力があって、きれいでした。体が柔らかいんですね。
荒川 毎日やっていないとすぐに硬くなりますよ。
三橋 そうですか。入浴後のストレッチなどはされているんですか。
荒川 いつって決めずに、結構いろんな場所でストレッチはしていますね。意識的にしているわけではないのですが、いろんな場所で、密かに打ち合わせの合間とかもやっていたりしていることもあります(笑)。
三橋 そうですか。睡眠時間は短いということなんですけど、眠りに入るときっていうのはスムーズに入れるんですか。
荒川 いや、それが結構時間がかかってしまうんです。昔はわりとすぐ眠れたんですけれども、最近は、やはり起きなければいけないというプレッシャーに駆られて、「寝なきゃ寝なきゃ」と思うとかえって眠れない。そうではない状況でうっかり寝てしまうほうが簡単なのでしょうが、「もうあと何時間しかないから寝なければ」と思うと寝られなくなってきちゃうんですね。
三橋 そうですか。遠征が多いと寝る場所もよく変わりますよね。
荒川 はい。いろんなシチュエーションがありますから、行ってからの運みたいなものもありますね。
三橋 なかなか眠れないときって、どうしていらっしゃるんですか。
荒川 うーん、ゲームをやっていることが結構多いかもしれません。アドレナリンが出ない、時間に制限のないパズルみたいなゲームってありますよね。
三橋 比較的単調なゲーム。
荒川 はい。時間の制限もないので、眠くなったらそのまま放っておけるというようなゲームをやっています。時間に制限がある対戦ゲームですと、きっとさらに寝られなくなるような気がして。自分がどんなパターンで眠くなるかを知っていれば、そういう単調なアイテムを見つけておくこともできます。
三橋 睡眠についてもやはりいろいろご自身なりに工夫をしていらっしゃるんですね。
荒川 そうですね。中には眠るために本を読む人もいらっしゃると思いますが、自分が次の日にどこまで読んだかまた探さなければいけないのが面倒なので、ゲームのほうが楽ではあります。
三橋 朝の目覚めはいかがですか。
荒川 朝は目覚まし時計が鳴るよりも先に起きます。必ず目覚ましの30分くらい前に目が覚めてしまうので、すごく損をした気分になります(苦笑)。30分ってもう1回寝直す時間でもなく、何となくもう少し寝たかったなあという気持ちを抱えながら(笑)、だらだらとベッドの中で30分を過ごして、あとはお風呂にパッと入って、目を覚まして出かける感じです。
三橋 朝、入浴されるんですか。
荒川 はい。シャワーのときもありますし、朝からお風呂張っているときもあります。夜はたいていゆっくり体を温めることを目的として入りますけれども、朝は髪の毛から足の先まで洗って目を覚ます、というような感じです。
三橋 朝は熱めのシャワーを浴びるのがお勧めの方法なんですよ。寝起きって体温が低いんですけど、交感神経が刺激され、体温も上がってすっきり目が覚めますから。
荒川 私、寝起きの体温がとても高いんです。
三橋 えっ、そうなんですか?
荒川 はい。寝ている間にとても代謝するようで、冬でも暑くて暑くてしょうがないぐらいになって起きるんです。
三橋 やっぱり筋肉がしっかりしているからでしょうか。羨ましい限りです。
荒川 その代わり、寝るときにはとても手足が冷たかったりするので、この時期(2月)は電気毛布に足のところだけ入れて、いざ寝るときには電気を切ってというようなことをしています。
三橋 それはすごいですね。普通は明け方というか、起床の2、3時間前が一番体温が低くて、体温が高いときと低いときと1日の内に1度くらい差があるものなのですが。
荒川 朝起きたときは大体37度ぐらいに近いところですね。それくらい朝は熱いんです。
三橋 へええ。普通は低いので、その後に体温を上げるのが大事だと言われるんですよ。
荒川 あっそうなんですね。その後、ぐっと体温が下がるんですけど。そのせいか目覚めがいいというか、もうちょっと寝ていたいときも寝ていられないのは残念な感じですけども。
三橋 お話を伺っていると、責任感の強さが伝わってきます。
荒川 妥協したくないんですね、やっていることに、きっと。何の仕事をしたから次の日の何がおろそかになるというのが嫌だったりするので、やるからにはすべてのことをきちんとやり遂げたいと思う。1種類の仕事で忙しい分にはきっと次の日に持ち越すこともできるんでしょうけれども、違ったことを常に切り替えてやっていかなければいけないので、今は妥協するポイントがないんです。次の日に持ち越すことができないのなら、今やっていることは今締めくくってしまわなければいけない。きっと次のことに響かせたくないという思いがあるのが、睡眠に費やす部分が一番後回しになってしまう原因でもあるんですけれど。そういうときに、短くてもいいのですが、深く眠りたいなとは思いますね。
次回に続く
(構成・山崎隆広/写真・森亨)
荒川静香 あらかわ・しずか
プロフィギュアスケーター。神奈川県鎌倉市出身。早稲田大学卒業。プリンスホテル所属。
5歳の時、たまたま遊びに行ったスケートに興味を持ち、ちびっ子スケート教室に入る。その後、小学校に入学してから、本格的にフィギュアスケートに取り組み、小学3年ですでに 3回転ジャンプをマスターし、天才少女と呼ばれた。94年には初めての国際大会(トリグラフトロフィー)へ出場。94年〜96年には全日本ジュニアフィギュア選手権で3連覇を果たす。世界ジュニアへも3大会連続で出場。97年、ジュニアからシニアへと移行してからも、日本選手権で初優勝を飾るなど、シニアでも大きな存在感を示す。98年、長野五輪へ出場。日本選手権でも 2連覇を果たす。2003年、ユニバーシアード、冬季アジア大会にて優勝。2004年3月、早稲田大学卒業と同時期に、ドルトムントで行われた世界選手権で3回転-3回転のコンビネーションジャンプを決め、技術点で満点の6.0をマークしワールドチャンピオンを獲得。トリノ五輪では、ショートプログラム及びフリースケーティングでも自己ベストを更新し金メダルを獲得。2006年5月にプロ宣言をし、国内及び海外のアイスショーを中心に、テレビ、イベント出演、スケート解説、オリンピックキャスター、また、イタリア・ピエモンテ州の観光大使を務めるなど様々な分野にも精力的に挑戦している。
(略歴はオフィシャルHPよりhttp://www.shizuka-arakawa.com/)
三橋美穂 みはし・みほ
快眠セラピスト。寝具メーカーの研究開発部門長を経て独立。心の環境、体の環境、睡眠の環境を整えることが快眠の3つの柱と考え、睡眠とストレス、食事、色彩、体操、呼吸法、寝具などとの関わりについて研究。講演や執筆、個人相談を通して、眠りの大切さや快眠の工夫、寝具の選び方などを提案している。特に枕は、その人の頭を触っただけで、どんな枕が合うかわかるほど。睡眠を多角的にとらえ、その幅広い知識と、実践的でわかりやすいアドバイスには定評がある。ベッドメーカーのコンサルティングや、ホテルや旅館の客室コーディネイトなど、企業の睡眠関連事業にも携わる。著書に『ねこに教わる快眠レッスン60』(PHP研究所)、『幸せを呼ぶ快眠ヒーリング』(日本実業出版社)などがある。
(オフィシャルサイト: http://sleepeace.com/)



