荒川静香さん(プロフィギュアスケーター)/第2回 いつまでも、学び続けたい 

この度の東北地方太平洋沖地震において被災された皆様およびそのご親族、関係者の方々に、心よりお見舞い申し上げます。皆様の安全と一刻も早い復旧を深くお祈り申し上げます。
なお、この取材は、震災前の2月に行われたものです。

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プロ転向以来、異なる様々な仕事に取り組みながら、どのチャレンジにも妥協はしたくないと語る荒川さん。ハードなスケジュールが続く毎日を、尽きない探究心をもって乗り越えていく彼女の、仕事にかけるプロフェッショナルな意気込みがにじむ。必読インタビューの第2回。

大切にしたい「ナチュラルさ」、そして子ども達の未来にかける夢
三橋美穂(以下三橋) 寝具はどんなものを使っていらっしゃいますか。

荒川(以下荒川) 以前いただいた枕(=スマートフィット ピロー)を使わせていただいています。私は、自然に眠りに誘導されるというようなナチュラルな感覚が好きなんです。

三橋 アロマもお使いなんですよね。

荒川 はい。何かに無理矢理に誘導されているという感じではなく、自然に体のサイクルを作ってくれるような気がするので。「特別何がいいのかわからない」という所がかえって好きです。

三橋 なるほど。

荒川 確かに、良し悪しの理由がはっきりとわかるという場合もありますよね。ただ、一方で、なぜそれがそんなにいいのか、その理由がわかってしまうとすごく「科学的」に感じてしまう。そうではなくて、空気と同じように「何がいいのかわからない、でも絶対に必要だ」という存在ってあるじゃないですか。そういう自然な心地が、きっと私には合っているのかなと思います。

三橋 この『フィギュアスケートを100倍楽しく見る方法』(荒川静香著・2009年講談社刊)も読ませていただいたんですが、一本芯が通った、軸がぶれない自分っていうものをしっかりお持ちなんだなと、今のお話をお聞きして感じました。

荒川 どうでしょうか、結構左右されますよ、いろんなことに(笑)。左右されていることに気づくときもあれば、気づかないときもあるので、自分って何だろうっていつも自分を見つめるようにはしています。客観的にも主観的にも、自分を知っておきたいと思いますので。

三橋 それは、何かあったときに、自分は本当はどうしたいんだろうかとか、大切にしたいことは何だろうかとか、そんなふうに見ていくという感じですか。

荒川 そうですね。あと、自分の体が今何を欲しているのか、栄養だったら何が足りない、睡眠はどのぐらい取っているか、と、常に自分の状況を把握しておくことで自分に必要なものが常に得られるということは大切だと思います。何がいいかわからずに取っているよりも、自分が本当に必要としているものを手にするほうがよっぽど効果があることは間違いないですからね。だからこそ自分を知る努力はしなきゃいけないなとは思っています。

三橋 素敵ですねえ。

荒川 でも、いくつ知っても、知らないことがたくさん出てくるので、それが面白いところです。新しい発見が、自分の年齢とともにどんどん現れていく。自分の体や健康の部分も含めて興味を持つのは、生きていく上で大事かなと思います。

三橋 先ほどいろんな種類のお仕事を並行して進めていらっしゃるというお話がありましたが、具体的にはどういったことをされているんですか。

荒川 今の季節柄(インタビューが行われたのは2月)、アイスショー以外では、屋外スケートリンクでのオープニングイベントであったり、スケート教室であったり、最近ではアーティストが音楽のプロモーションに来たときに、彼が氷の上で歌って、私が滑ったりとか、本当にいろんな種類の、スケートのプロとしての仕事の中にも幅がいろいろあります。他にももちろんショーがあって、ショーのためのプロモーションのイベントやテレビ番組に参加させて頂いたり。あとは、スケートという競技を伝えるという意味で解説の仕事や、解説をする競技のプロモーションのための番組出演など。それぞれに関連した何かで派生していくこともありますね。

三橋 そんなにお忙しいと、プライベートの時間というのはおありなのかなと思ってしまうんですけど。そういえばご著書の中に趣味はスケートと書いてありましたね。

荒川 そうなんです。趣味と考えないと、時間を取ろうと思っても取れないから。そうやって「練習するのも趣味だから」と思っていれば、自分の時間だと思って使える。そういう形で楽しみつつやっています。あとは、今はシーズン中なので、その選手たちの現在の調子に関しての取材を受けることもありますし、競技会の総括みたいなものの取材を受けたり、雑誌取材を受けたり。本当に括りのない感じで仕事をやらせていただいてます。でも、面白いですよ、毎日同じ仕事をするわけではなく、違うことをさせていただくというのは。いい刺激になります。

三橋 そのときそのときがすべてですものね。では、この先、こういう分野の仕事を手掛けたいとか、そういったことはおありですか。

荒川 私はプロになって5年なのですが、最近は選手の育成をしてみたいと思っています。育成のための技術を学ぶとなると、日本にいても出来はするのですが、日本の環境って、このスケートリンクに所属していないコーチは教えてはいけないとか、そういう規則が各リンクにあったりするので、難しいと言えば難しい。だからちょっと外に出てやってみたいなと思うこともあります。私が与えられることって一部だと思うのですが、私自身まだまだずっと学び続けたい。教えながらも、子ども達から学ぶことはたくさんあると思いますし、いろんなことを学んでいきたいという私のスタイルは当分変わらないかもしれないですね。

三橋 ご著書を読んで思ったんですが、我が身に起こってくることすべてを自分に戻しながら、人のせいにするわけじゃなく、じゃあそれを乗り越えるためには自分はどうしたらいいのだろうという風に生きて、成長されてきたんだなというのが、すごく伝わってきました。

荒川 そうですね。おそらく、人間の成長には限界がないから面白い。自分がそうやって培ってきたものを自分の中で溜め込んでしまうのはもったいないと感じるから、今度は育成という方向に使っていきたいなと思うんですね。それはスケートの選手の育成だけではなくて、プロになってからショーのプロデュースもさせていただいたりしたことから得られた考え方です。そもそもフィギュアスケートのアイスショーの歴史がまだまだ日本では浅い部分がありますし、日本でスケーター側からショーをプロデュースしているケースってまだ歴史的に根付いていないですから、自分がやってきたことを見せることで、そういったプロデュースができるスケーターも育てていけたらいいなと思います。

  現在は、競技会もたくさん放映していただいたり、たくさんの方に見ていただけるチャンスが増えたのですが、まだまだアイスショー、アマチュアを引退したスケーターたちがどうしているかを知らない方のほうが多いのではないでしょうか。フィギュアスケートファンの方々や、アイスショーが好きな方々には会場に足を運んで見ていただいているのですが、アイスショーが放映される機会というのはまだ少ないので、そうやって少しずつ広く知っていただけるような、誰もが、「ああアイスショー、行ったことあるよ」というぐらい認知度が高まっていけばいいなとは思いますね。

三橋 荒川さんご自身が企画をされた素敵なアイスショーが、ますます増えていくのが楽しみです。

荒川 そうなったら嬉しいですね。現在活躍しているアマチュアスケーターたちも、いずれ将来どんな道に進むのかということを考えたときに、1つの選択肢としてアイスショーが入ればいいなと思いますし、子ども達も「世界選手権、オリンピックで金メダルを取ることは素晴らしい体験だ」というのは身近で目にして知っているかもしれないですが、その先、何が素晴らしいのかはよくわからない。夢の最高の形がアマチュア競技の選考までで終わるよりも、もっと先に、素晴らしいことが待っているということまで伝えていければいいと思います。選手として結果を残した人がいつの間にか簡単に消え去ってしまうということではなく、その先どんな将来が待っているから、夢を目指すことに価値があるんだ、というところまで伝えていければいいと思うんですね。

寝過ごすことよりも寝られないことのほうが心配?
三橋 先ほど、目覚まし時計の時間より30分ぐらい前に起きてしまうというお話がありました。「目覚ましライト」っていうのがあるのをご存じですか? 例えば7時にセットしたら、その30分ぐらい前から少しずつ明るくなっていくというもので、それってすごく気持ちよく目を覚ますことができるんですよ。私はそれを使ってから寝過ごさないようになりました。

荒川 私の場合は寝過ごしたことは1度もないんです。絶対に目覚ましが鳴る前に起きる。確かに、本当は外の太陽の光とともに目が覚めていくのが理想なんですけれども、真っ暗の部屋で寝ています。ギリギリまで寝ていたいですから。

三橋 なるほど。

荒川 自分で起きて、窓を開けて、目覚めたいんですけど、真っ暗にして静かにしていても寝られないんですね。寝る方法が知りたいです。

三橋 「目覚ましライト」みたいなものがあれば、きっと安心して寝られるんじゃないかなと思ったんですが。

荒川 寝過ごすことを気にして起きるんじゃないんですよね。おそらく次の日の仕事の内容に関して、いつもどこかにプレッシャーがあるんでしょうね。起きることに不安があるんだったら、みんなに起こしてもらうよう頼めば多分それは解消できるんですが、起きられないことよりも寝られないことのほうが私の場合ずっと深刻なんです。昔から寝坊することはないんですけど、学生時代から一人暮らしをするようになって、朝1人で誰も起こしてくれない状況で起きなければいけない、何をしなければいけないということをやっているうちにそれは身について。あまり深く寝る方法がわからないです(苦笑)。

三橋 入浴も真っ暗な中でされるんですよね。

荒川 はい。

三橋 真っ暗な中で、体もちゃんとほぐして眠るわけですよね。呼吸などはいかがですか。

荒川 呼吸はたまに止まっている気がしますね。何か緊張状態とか、何かすごく深く考えているときって、気づいたら苦しいなって、起きているときでも気づきます。多分知らない間に息を止めているときがあります。でも寝ているときにどうかはわからないですね(笑)。

三橋 そうしたら、眠るときに、深呼吸をしながら眠ると深く眠れると思いますよ。呼吸というのは息を吐くときに副交感神経が働くので、吐く息を長くしながら深呼吸を繰り返しているだけで自然にリラックスができるんです。眠り始めの呼吸が深いと睡眠中の呼吸が全体に深くなってくるので、わりと熟睡感が得られると思いますから、本当に簡単にできる。

荒川 私、1時間ぐらい深呼吸し続けそうだな(苦笑)。今から寝ますっていう体勢を取ると、急になんか眠れなくなっちゃうんです、不思議なことに。

三橋 そうですか。

荒川 羊とか永遠に数えることができそうな気がします。六百何十匹まで数えたことがあります。くだらないと思ってさすがにやめちゃったんですけど。2時間くらい数えてたかな(笑)。

三橋 羊を数えるのは、もともとあれは英語で数えるところから始まっているんですよ。

荒川 そうなんですか。

三橋 ええ、そうなんです。「ワンシープ、トゥシープ」って数えていくと、シープと言うときに息がふっと吐けるのでリラックスできるんです。

荒川 そうするべきだったんですね。私は思いっきり日本語で「羊が1匹」だからいけなかったのかな(笑)。

三橋 英語がよいと思います。

荒川 「ああ頭が冴えてくる、すごい羊溜まってきている、こっちに」って思いながら数えてました。「もう羊が入る場所がないし、来る羊もいないんじゃないか、くだらないな」と思い続けて2時間、六百何十匹でやめました(笑)。英語でもだんだん大変になってきますよね。六百匹まで数えられるか不安ですね(笑)。

三橋 もしくは日本語で数えるなら、羊ではなく、「ひとーつ、ふたーつ」で、10まで行ったら1に戻るというふうにすると、単調で良いのではないですか。

荒川 ああそうですね。単調なもののほうがいいですよね。楽しくなってきちゃうんです、だんだん途中から。「何匹数えるんだろう、私は」っていう好奇心に駆られて(笑)。

三橋 そうすると今度は頭が冴えてきてしまいますね(笑)。

荒川 わくわくしてくる(笑)。

三橋 肩こりなどはありますか。

荒川 はい、万年の肩こりですね。「肩がこったな」という自覚症状があるときには、首にホッカイロを貼ります。それで筋肉はリラックスするんですが、熱くなっちゃって、途中で取ってしまう。

三橋 今の首を温めるというお話ですが、目を動かす動眼筋という筋肉と、首の付け根のあたりと、腰の仙骨のあたりというのは、そこを温めると副交感神経のスイッチが入るんです。ですから、ホットタオルをポリ袋に入れて、その3箇所を温めるとすごく良く眠れますよ。興奮して寝付きが悪そうなときも、よく眠れます。

荒川 そうなんですか。

プレッシャーを楽しむ
三橋 毎日プレッシャーの連続ですよね。

荒川 そうですね。でも慣れてしまっています。寝ないことにも。良くないんでしょうけれど。アマチュアの活動が終わってからすぐの頃は、「毎日7時間は寝たいな」と思っていたんですけれど、「今は5時間寝られればよしとするか」という感じになってしまっていて。そこで既に2時間、自分のペースが縮まってしまっているわけですからね。

三橋 プレッシャーの中でも、毎日新しいことに取り組まれていると、楽しいですか。

荒川 楽しいですね。楽しいと思わないとそれがストレスになってしまうというか。目の前にやって来ることを、どんなにことも楽しんでやろうとは思っています。やはり自分が楽しんでやっている物事の出来というのは、きっといやだいやだと思ってやっているよりもいいものだと思うので。だから、何が楽しいのか、最初に発見しようとします。例えば、難しいから面白いのか、うまくいかないから面白いのか、逆に頭に来るから面白いのか。何か探そうとすると面白くなる。

三橋 アスリートの方はプレッシャーに苦しんで、楽しめない方も多いと思いますが、荒川さんの場合は素朴に楽しめているのかな、と思います。

荒川 自分を解放するものを見つけないと、やはり時にリセットしないとおかしくなってしまうと思います。誰しも、どこかで自分をみつめ直す機会を見つけないと。先日スイスに遠征に行ってきました。最近ずっと日本にいることが多くて、というのも、アイスショーのマーケットがアジアに来ているというのもあって、海外に出る機会が減っていたんですね。ただ、そうして外に出ることで、自分の考えが固執していたな、ということに気付きもする。それ以来、新しい自分を発見して、新しい言葉も出てくるようになりましたしね。だから、時折は自分の環境をリセットして、自分を外に出してあげることも必要かなと思います。

w22_1160621.JPG【三橋美穂さんの取材後記】

常に新しいことにチャレンジし続けている荒川さん。何事にも一生懸命で、努力を惜しまない、その一貫した姿勢が、輝き続けている秘訣だと感じました。今、取り組んでいることの本質に触れ、ときには難しいスキルや練習の中にも楽しみを見出し、歓びとして表現している荒川さん。人生の達人として成長し続けている彼女だから、今は上手く眠れない自分を許容して、眠りを扱えるようになったら、また次のステージに入られるのではないかと思いました。これから、ますますのご活躍が楽しみです!

(構成・山崎隆広/写真・森亨)

荒川静香 あらかわ・しずか
プロフィギュアスケーター。神奈川県鎌倉市出身。早稲田大学卒業。プリンスホテル所属。
5歳の時、たまたま遊びに行ったスケートに興味を持ち、ちびっ子スケート教室に入る。その後、小学校に入学してから、本格的にフィギュアスケートに取り組み、小学3年ですでに 3回転ジャンプをマスターし、天才少女と呼ばれた。94年には初めての国際大会(トリグラフトロフィー)へ出場。94年〜96年には全日本ジュニアフィギュア選手権で3連覇を果たす。世界ジュニアへも3大会連続で出場。97年、ジュニアからシニアへと移行してからも、日本選手権で初優勝を飾るなど、シニアでも大きな存在感を示す。98年、長野五輪へ出場。日本選手権でも 2連覇を果たす。2003年、ユニバーシアード、冬季アジア大会にて優勝。2004年3月、早稲田大学卒業と同時期に、ドルトムントで行われた世界選手権で3回転-3回転のコンビネーションジャンプを決め、技術点で満点の6.0をマークしワールドチャンピオンを獲得。トリノ五輪では、ショートプログラム及びフリースケーティングでも自己ベストを更新し金メダルを獲得。2006年5月にプロ宣言をし、国内及び海外のアイスショーを中心に、テレビ、イベント出演、スケート解説、オリンピックキャスター、また、イタリア・ピエモンテ州の観光大使を務めるなど様々な分野にも精力的に挑戦している。
(略歴はオフィシャルHPよりhttp://www.shizuka-arakawa.com/

三橋美穂 みはし・みほ
快眠セラピスト。寝具メーカーの研究開発部門長を経て独立。心の環境、体の環境、睡眠の環境を整えることが 快眠の3つの柱と考え、睡眠とストレス、食事、色彩、体操、呼吸法、寝具などとの関わりについて研究。講演や執筆、個人相談を通して、眠りの大切さや快眠の工夫、寝具の選び方などを提案している。特に枕は、その人の頭を触っただけで、どんな枕が合うかわかるほど。睡眠を多角的にとらえ、その幅広い知識と、実践的でわかりやすいアドバイスには定評がある。ベッドメーカーのコンサルティングや、ホテルや旅館の客室コーディネイトなど、企業の睡眠関連事業にも携わる。著書に『ねこに教わる快眠レッスン60』(PHP研究所)、『幸せを呼ぶ快眠ヒーリング』(日本実業出版社)などがある。
(オフィシャルサイト: http://sleepeace.com/

 
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